Tsuna・Good!

箱根を制した大八木監督に関する考察

2021.02.04
ワークスタイル

強い駒大が復活

2021年の箱根駅伝は、駒澤大学が劇的な逆転優勝を飾りました。
「平成の常勝軍団」といわれた駒大も2008年以降優勝から遠ざかっていましたが、13年ぶりにV奪回。しかも歴史に残る奇跡的な逆転劇を演じて掴んだ勝利でした。昨秋の全日本大学駅伝も制し2冠を達成、強い駒大復活を印象づけました。

ご存じかもしれませんが、ここ数年の大学駅伝シーンは「青学時代」といわれています。
青山学院大学は箱根駅伝において、ここ6年で5回の優勝を誇り、もちろん今年の箱根でも優勝候補の一角を占めていました。

実はこの2校、指導する監督のキャラが対照的なことでも知られています。
駒大を復活に導いた大八弘明木監督は、名セリフ「男だろ!」でも知られる熱血指導タイプ。
一方で、青学を強豪チームに押し上げた原晋監督は、選手主体の指導法が評判の監督です。青学の連覇が続き、彼の評価はうなぎのぼり。対照的に、勝てない駒大とともに大八木監督の厳しい指導がレガシー的に語られていく。そんな中での今回の復活劇でした。

大八木監督VS原監督

大八木監督は、箱根駅伝を含む大学3大駅伝で単独最多の23勝をあげた名将です。
その厳しい指導には定評があるだけに、ただでさえ打たれ弱い(と評されることが多い)若者世代に、どのような指導をして優勝に導いていったのか、非常に興味深いところです。

アスリートが成長し結果を出すには、本人のモチベーションが欠かせません。
だから指導者のモチベーションマネジメントに関する手腕が問われるわけです。
今は、信賞必罰の「外発的動機付け」ではなく、自らヤル気が湧き出るように仕向ける「内発的動機付け」が有効だとされています。
外発的動機付けは、外からの強い刺激でヤル気を誘発しますが、受動的な動機付けであるために持続性がありません。一方で、内発的動機は、成長や自己実現、他者へ貢献できる喜びなど、自分の中から湧き出てくるもので、高い集中力が発揮され、質の高い行動を長く続けられるとされます。内発的動機付けがよいとされる所以は、このモチベーションの質です。

大八木監督と原監督の指導法をざっくり比較すると、
・大八木監督=「男だろ!」の𠮟咤激励=外発的動機付け
・原監督=選手の主体性ありきの伴走型=内発的動機付け
と、なるでしょう。
“いまどきの若者”に対峙するには、原監督の支援型のほうがフィットしているようにも思えます。

その時、応援マイクを学生に渡した

しかし、大八木監督の指導の本質が垣間見られるシーンがありました。
最終10区を走る3年生が、1位の創価大を捉えようかという局面です。
運営管理車の助手席に陣取る大八木監督は、応援マイクを後部座席の学生に渡したのです。
一瞬、きょとんとなる中、マイクを受け取った4年生の主務は、快走する3年生に「いままであ
りがとう!」と涙ながらに語りかけました。アンカーを任された3年生は、今まで世話を焼いてもらった先輩主務からの声援を受けたあと、前を向き胸をはり、ぐっと加速しました。

アドラー心理学では、人を育てるには「横から勇気づける」ことが有効で、人はどんなときに最も勇気が湧くかといえば、組織への貢献を「感謝された」ときだとされます。監督自らではなく同じ学生からの激励。激励というより感謝。大八木監督の行動は、アドラーの教えにぴったり合致しています。
外部からの強い刺激という点では、「男だろ!」は外発的動機付けの最たるものです。しかしこの言葉が駒大選手にとってスイッチの入るマジックワードであり続けるのは、言葉の力そのものより、その根底に選手への愛と感謝が宿っているからかもしれません。

ハイブリッドリーダーシップ

加えて大八木監督は、ここ数年指導法を変えているようです。

「昔は大八木監督の存在は絶対で、選手も監督の言葉に従順に従うことが強くなる早道だと思っていた。しかし、いまは違う。選手たちは従っているように見えても、信じ切っているかどうかはまた別の話。学生の意見を聞くようになって、そのうえで、『じゃあ、こうしていこうか』と。学生にすれば自分で発言したことで、ヤル気と責任が生じる」。
関係者のインタビューからも、実は大八木監督が、対話重視に舵を切ったことが分かります。まさに内発的動機付けに点火するメソッドを実践しています。

今でも基本的に指導は厳しいのでしょう。しかし横から目線で勇気づけるような心遣いを持ち合わせた愛の人でもある。だからこそ「男だろ!」が伝家の宝刀として、ここぞの場面で活きる。そして近年、対話によるコミュニケーションをプラスした。大八木監督は、自身の指導を「外発的動機付け+内発的動機付け」のハイブリッド型リーダーシップへとアップデートしていました。

指導者に限らず、人間、50歳を過ぎると自分のメソッドを変えるのは難しいものです。しかも、大八木監督ほどの成功者であれば、なおさらでしょう。世のオトナが最も学ぶべきは、変わろうとする意欲と、実行できる柔軟性なのかもしれません。

プロフィール

ツナグ働き方研究所 所長 平賀充記(ひらがあつのり)

ツナグ働き方研究所・所長。ツナグ・ソリューションズエグゼクティブ・フェロー。リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)にて、FromA、タウンワーク、はたらいくなど、リクルートの主要求人メディア編集長を歴任。2014年に、同社を退職し、株式会社ツナグ・ソリューションズの取締役に就任。翌2015年には、日本で唯一のアルバイト労働市場に特化した調査研究機関である、ツナグ働き方研究所を設立。30年以上の仕事人生のほとんどをアルバイト・パート採用関連の仕事に捧げており、「多様な働き方の専門家」として活動している。著書に『非正規って言うな!』『アルバイトが辞めない職場の作り方』(ともに、クロスメディア・マーケティング)『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。

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