Tsuna・Good!

急増する退職代行。その背景を考える。

2019.07.04
ワークスタイル

辞めたいのに辞められない

退職代行。
この言葉が少し前からネット上で話題になっています。
文字通り、退職の意向を本人に代わって会社に伝えるサービス。
会社を辞めたいのに辞められないという人の助け舟的な存在として、このサービスの利用が急速に増えているのです。

厚生労働省では、各地の労働局で受けた自己都合退職に関する相談件数をまとめています。
これは働く人がみずから退職を申し出た際などに起きたトラブルの相談件数で、平成29年度に3万8900件を超え、ここ10年で2倍余りに増加しています。
この中には「辞めたいのに辞めさせてもらえない」といった相談が多数含まれています。
史上空前とも言われる人手不足の中、従業員の退職は大打撃。
必至に引き留めたくなる企業心理は分からなくもありません。

命より大切な仕事はない

しかし行き過ぎた引き留めが散見されるのが現状です。
 「君を採用するために1000万円かかったのに」
 「頑張ると言っていたのに辞めるなんて意味がわからない」
こういった高圧的な言葉を投げられ続けることで、どんどん辞め辛い状況に追い込まれるケースが多発。
結果的に心身に変調をきたす例も少なくありません。
 「会社のことを考えると体調が悪くなります」
 「毎朝泣いているので疲れが取れず、まともに働けなくなっていった」
 「入社したばかりで試用期間中なので退職を申し出るのも申し訳なく、仕事を教えてくれる先輩達にも申し訳なくて鬱々としています」
これらは、ネット上での会社を辞めたいけどなかなか言い出せない人たちの声。
退職代行サービスを運営している会社や弁護士は、
 「命を救うサービスだと思っています。ブラック企業の根絶につながってほしい」
 「働く責任感は大事だが、命より大切な仕事はない」と、口を揃えて話しています。

5万で辞めれるならコスパいいじゃん

企業からの過剰な辞めさせない圧力によって心身を病むような深刻事例は、確かに見逃すわけにはいきません。
しかし一方で、退職代行が急増している背景には働き手の行動原理や価値観が確実に関係しているようにも思います。

実は、知人が運営している保育園にも退職代行から電話がかかってきて、この4月に入社したばかりの25歳の保育士が辞めたとのこと。
理由は「勤務による持病の悪化」。面接では持病の話は出ていなかったとのこと。
その知人は、「え?なにごと?どういうこと?」と、まさに狐につままれたような感覚だったと話していました。
この件においてはブラック企業から逃れたいという深刻な事例というよりある意味、お手軽に退職代行を使ったケースに見えます。

職場で嫌な事があった。辞めたい。しかし辞めるって、手続きとかどうすれば?
失業保険ってどうやったらもらえるだっけ?と、思いながらとりあえず「退職の仕方」などといったワードを検索窓に打ち込んでみる。
そうすると、検索一覧にはズラリと退職代行の文字が並んでいます。
なんかあったらとにかくググる。答えはそこにある。それが若者の行動原理です。
 「え、5万で代行してもらえるんだ。それなら頼んじゃおう。下手に長引くよりコスパよくない?」
といった感覚。まさに合理的で生産性重視の若者を象徴するような思考回路です。

拙著「なぜ最近の若者は突然辞めるのか」で、世のオトナに若者の価値観を理解することを推奨してはいるのですが、この「辞める問題」に関しては、若者には共感しがたく。
よっぽどのことないかぎりは、自分で辞めると言ってもらいたいなぁと思う次第です。
最近は「アルムナイ採用」といって、退職者の復職が注目されています。
選考に「リファレンス」という旧職からの推薦状をや身元保証書を活用する企業もあります。
“立つ鳥あとを濁さず”の姿勢が結局のところ、転職のコスパがよかった、ということにもなりかねません…。

プロフィール

平賀充記(ひらが・あつのり)

ツナグ働き方研究所・所長。ツナグ・ソリューションズエグゼクティブ・フェロー。リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)にて、FromA、タウンワーク、はたらいくなど、リクルートの主要求人メディア編集長を歴任。2014年に、同社を退職し、株式会社ツナグ・ソリューションズの取締役に就任。翌2015年には、日本で唯一のアルバイト労働市場に特化した調査研究機関である、ツナグ働き方研究所を設立。30年以上の仕事人生のほとんどをアルバイト・パート採用関連の仕事に捧げており、「多様な働き方の専門家」として活動している。著書に『非正規って言うな!』『アルバイトが辞めない職場の作り方』(ともに、クロスメディア・マーケティング)がある。

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